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FM Towns: Free Software Collection 4
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FM Towns Free Software Collection 4 - Disc 1.iso
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1991-10-18
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204 lines
====================================
GO-SHEET
====================================
プロローグ
2010年、謎の軍事国家「ゴーシート」が圧倒的な戦力にものを言わせ全世界のほぼ3分の1を掌握して以来、各国には混乱の渦が巻き起こっていた。
ゴーシートの思想に合意する一派らによる軍事拠点の占領や、余りにも無残な大量虐殺。その他の大規模な暴挙によって、多くの国家は弱小化して行き、中には完膚なきまでに倒れたものもあった。
この深刻な事態を考慮した国連上層部は、特別対策委員会「スペシャル・グローバル」を招集。24時間の会議の末に、対ゴーシート計画「プロジェクト・ショットガン」の実行を決定した。
「プロジェクト・ショットガン」の内容はまず、各地に点在する重要拠点の奪還と、国連軍機動艦隊によるゴーシート精鋭艦隊の完全粉砕。そして、アメリカ最強の空母「ドナルド・ベイカー」を中心とした空母艦隊「チーム・ハイボール」のゴーシート本拠地壊滅作戦である。
「チーム・ハイボール」の働きに絶大な信頼を寄せている合衆国大統領ジェイムス・グランは、作戦成功率の増加の術として、現在試作段階にあるスーパー・ファイター「X-345M」の投入と、世界最強の航空傭兵ヘビィ・マンを「ドナルド・ベイカー」に呼び寄せることにした。
一方、ペンタゴンから依頼を受けたヘビィ・マンは、多額の報酬を条件にようやく重い腰をあげるのだった。
1.「X-345M」
・・・ゴーシート本拠地壊滅作戦「オペレーション・パッション」の進行機関である「チーム・ハイボール」は、24ノットの速度で作戦海域へと向かっていた。その戦力は「ドナルド・ベイカー」を中心として巡洋艦二隻、フリゲート艦四隻、駆逐艦一隻、AEGIS艦二隻。そして攻撃型潜水艦と補給艦という大所帯である。
艦隊の中枢をなし、米海軍のシンボルとしてその地位を築き上げた超空母「ドナルド・ベイカー」。全長450M、乗組員数6300人。100機以上の艦載機を搭載でき、それを射出するカタパルトは5基。そしてバイオテクノロジーを応用した食糧自給機能をも備えている。まさに一大軍事都市。動力は原子力、最大速度は50ノットである。
新生米海軍の基礎を築いた短命の提督、ドナルド・ベイカーの死後3年。第19艦隊の旗艦として生み出された超空母にその名が与えられた。名実共に、米海軍全将兵達の誇りである。
その「ドナルド・ベイカー」のレディ・ルームにて、作戦に参加する飛行隊員が艦長兼チーム・ハイボール最高指令官ダニエル・カールストン直々の説明を受けていた。彼はカルフォルニア出身の黒人で、実に陽気な男だったが、不屈の海軍魂と正確な判断力は米海軍一で、ジェイムス・グラン大統領に一目置かれる存在であった。
軽いジョークを所々に出しながら、説明を続けるカールストン。ゴーシートが中東沿岸の地域に建設した重要軍事港ドリーム・ランドを攻略する、「パッション1」と銘打たれた作戦の内容は次のようなものであった。
・・・「チーム・ハイボール」をドリーム・ランドのレーダー範囲外の海域に停滞させ、そこから艦隊防空のF-14GZ/7機、そしてヘビィ・マンが駆る「X-345M」が発艦する。
「X-345M」が領空を強行突破してドリーム・ランド上空に侵入。動力エリアと目する発電施設を爆撃し破壊した後に、後続のDL-76Bを中心とする爆撃機4個スコードロンが続いて侵入。大規模な爆撃を展開する中、「チーム・ハイボール」がドリーム・ランドに入港して完全制圧を行う、というものである。
ミーティングの後、カールストンの説明を黙って聞いていたヘビィ・マンは早速出撃の準備に取りかかった。
金髪をGIカットにして口元の不敵な笑いを絶やさないこの男は、タフでハードな航空傭兵である。空戦にかけては世界一の腕を誇り、対地攻撃では正確に目標を破壊するまで。莫大な金額でしか仕事を請け合わない腰の重さから「ヘビィ・マン」というニック・ネームがつき、今ではそれが仕事の上での名前となっている。
・・・艦首のカタパルトから防空のF-14GZが次々と発艦していく中、「X-345M」に乗り込んだヘビィ・マンは、通信機越しにキャサリン・ブラウンという若い女性通信士官を口説いていた。本来、米海軍艦船に女性を乗せることは許されていなかったが、2001年に法律が一部改められ、2003年にようやく女性乗艦が認可されたのだ。とはいっても、ほんの20名ほどである。数少ない女性乗組員の中で、キャサリンは清楚な感じのする絶世の美女だったので、以前から目をつけていたのである。
作戦中は彼女のことをルージュ1と呼ばなくてはならない。それが「ドナルド・ベイカー」の通信員に与えられたコール・サインだからだ。ヘビィ・マンは彼女から指示を受けながら事を運んでいく。ちなみにヘビィ・マンのコール・サインはガーネット1である。 ルージュ1から発艦命令を受けた「X-345M」はついに初陣の場へと向かっていた。
次期主力艦載機として最も期待度が高い「X-345M」は超巨大軍需産業セブンティーン・コーポレイションの作である。充実した火器管制システム、機敏な運動性、どれをとっても従来の戦闘機を大幅に上回り、2012年から世界の表舞台に立つ。元型1号機による初飛行は2009年にネバダの特別工場隣接のカーバダナル飛行場にて行われ、同年の十月にはスキー・ジャンプ台からのSTOL発進、年末には3号機でスカイ・フック艦のクレーンから空中発進し、その時の飛行でマッハ7という超音速を達成している。コントロール機構はF-16のフライ・バイ・ワイヤを後継し、最高の操縦性を獲得。兵装はM78-D/20ミリバルカン砲1基、AIM-134B型スーパー・スパロー・ミサイルを主とした各種ミサイル、爆弾類である。
開発陣が「X-345M」のニック・ネームを「マイティ」とし、空、海軍に必死のアピールを行っているのが現状で、大量の発注が期待されている。
「X-345M」は指定されたポイントを通過し、領空内に侵入した。その速度はマッハ0.8という亜音速である。
ドリーム・ランドのレーダーはすでに「X-345M」の姿を捉えていたのだろう、迎撃機の接近を知らせる光点が「X-345M」の火器管制レーダー・スコープに現れた。 その数は、8つである。
「こいつぁ少し、運動せねばならんな。」
ヘビィ・マンがそう言って、威嚇の為に動き始めた時、接近してくる目標の一つから白煙が上がった。ゴーシートの使う赤外線空対空ミサイル、GA-4・バハージが発射されたのだった。・・・だが、それは「X-345M」の見事な回避運動でかわされた。
「トマト・マンか・・・。」
目標との距離が縮まり、その姿が目認できたヘビィ・マンは一言もらした。相手はゴーシートの多目的戦闘機ER-10。赤い塗装を機体の施しているため、国連軍から「トマト・マン」というニック・ネームを受けている。量産性には優れているが、運動性がひどく貧しいので国連機にしてみれば最も撃墜し易い敵だ。
散開して「X-345M」を囲もうとしたトマト・マン達だが、ヘビィ・マンの世界一の操縦テクニックによって、すでに3機の損失を被った。所詮、役者が違うのだ。
5秒と待たず、再び「X-345M」のHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)にトマト・マンの後ろ姿が飛び込んできた。スーパー・スパローで殺るにはロック・オンに時間がかかり過ぎる。ヘビィ・マンは使用火器を20ミリバルカンに切り換え、目標に逃げられないように微妙に機首を動かし、トリガーを引いた。・・・連射される機関砲弾をジェット・ノズルに受けたトマト・マンは、爆発しながら墜落していったのだった・・・。 空戦には常にレーダー・スコープに映るブリップ(光点)の数、動きを見ながら、撃墜に有利なポジションを占めなくてはならない。そうでないと自らが、目標の放つ空対空ミサイル、バルカン砲の餌食になってしまうからだ。バルカン砲は不意に放たれるが、ミサイルに関しては必ず自機にレーダー波が照射される。現用の戦闘機はこれを感知するとコックピット内に警告音を発し、パイロットにロックされた事を知らせる。・・・これに対してパイロットはECM(電波妨害)のスイッチを入れ、回避運動をとるのだ。機体に内蔵されているチャフ(ミサイルの方向をそらせる金属細片)を散布すると、かなり高い確率でミサイルをかわせる(赤外線探知型のミサイルは太陽の位置が重要)。又、こちらが目標をミサイルで撃墜する場合、まずHUD内で目標を捉え、ロック・オン・マーカーがそれと重なって赤に変わるのを見てからトリガーを引く、という手順で行う。「X-345M」に搭載されているスーパー・スパローは全部で8発。射程は160キロメートルで、その命中率も高い。
・・・8機のトマト・マンを一掃した「X-345M」は、高度を下げ、ドリーム・ランド上空に侵入した。
たちまち地上の対空砲が火を吹き、「X-345M」に無数の砲弾が飛んできた。だが、ヘビィ・マンの超人的なテクニックはそれらをかすらせもしない。20ミリバルカン砲が対空砲を撃破してゆく。ついでに地上建造物を破壊しながら、「X-345M」は発電施設へと向かっていた。そうしていると、レーダー・スコープに2つのブリップが現れた。またもやトマト・マンだ。目標撃破が優先される今、かまっている暇はない。
「こいつぁ、急がねぇとな・・・。」
背後から来るバルカン砲をかわしながら、ヘビィ・マンは顔をしかめた。・・・発電施設らしき建物が見えてきた。HUDに目標までの距離がバーグラフで示される。これがゼロになるのと同時に目標と縦軸を合わせ、ドロップ・スイッチで高性能爆弾を投下するのだ。ヘビィ・マンほどのパイロットなら難しいことではない。背後のトマト・マンがいなければの話だが・・・。機体を左右に動かしながら「X-345M」は目標に近づく。バーグラフがなくなるか、なくならいかの所で、ヘビィ・マンはスイッチに手をかけた。
「そこだっ!!」
次の瞬間、激しい爆発が一帯に起こった。「X-345M」のパイロンから落ちた高性能爆弾が発電施設に命中したのだ。
「トンズラといくか。」
スロットル・レバーを前に押して、右のスティックを後ろに倒すと、「X-345M」は高速で上昇して、その場から去るのだった・・・。
2.MIDNIGHT BATTLE
4時間にわたる「チーム・ハイボール」の一方的な電撃作戦によって、ドリーム・ランドは完全に陥落した。局地戦の兵力投入の為に港部に横付けされた巡洋艦やフリゲート艦からは占領に必要な機材が下ろされている。
夕焼け空をバックに、戦闘を見物していた空母「ドナルド・ベイカー」がAEGIS艦2隻をひきつれて入港してきた。空母たるもの、地上戦闘には直接関与するべきではない。離れた所から戦況を見て、支援のために航空機を飛ばす・・・、荒っぽい仕事はそれ専用の艦に任せておけばいい。・・・「ドナルド・ベイカー」の飛行甲板では、作戦成功の要となった男、ヘビィ・マンが煙草をくゆらしながら、廃墟と化したドリーム・ランドを眺めていた。しばらくそうしていると、キャサリンがアイランド(ブリッジが存在する構造物)の方から駆け寄ってきた。
「ヘビィ・マン!!」
そう言ったキャサリンの表情はヘビィ・マンの期待していたものとは違う、険しいものだった。・・・どうしてそんな顔をするのかは、ヘビィ・マンには容易に理解できた。
「何ボケッとしているの!?、『パッション2』の発動はもうすぐなのよ!!」
ヘビィ・マンの側までくると、キャサリンは早速叱咤の声をあげた。
・・・「パッション2」。1時間前にレディ・ルームで耳にした、ゴーシート・ベースへの夜間急襲だ。その内容は、ゴーシートの占領下にある市街区域、パール・エリア内にあるゴーシート補給基地、ベースG43に致命的な打撃を与え、壊滅状態においやる、というものである。それを完遂した後に、別ルートを通ってきた給油機と合流して、それ以後、ゴーシート本拠地を潰すまでには「ドナルド・ベイカー」に帰投しないことになっている。
キャサリンと軽い会話をしたヘビィ・マンは、煙草を捨てて「X-345M」が翼を休めている艦尾へと向かった。・・・そしてその後ろ姿をキャサリンはじっと見守るのだった・・・。
「ドナルド・ベイカー」から出撃した「X-345M」は、ルージュ1との通信を続けながらパール・エリアに到着した。日は既に落ち、空はすっかり暗くなっている。下方のネオンの海が美しく感じられた。ベースG43を発見する前に、やはり敵機と戦わなくてはならなくなった。J7-A、それが今度の相手である。
「ドンファン・・・、こいつぁ厄介だ。」
ニック・ネーム、ドンファン。通常マッハ2で飛行し、最高速度はマッハ9。逃げ足が速いためにロックしにくく、しかも運動性に優れているため、あっと言う間に後ろにつかれてしまう。・・・今 しているのは8機、夜間だが、暗視ヴィジョンをキャノピーに出力しているため目標は確認できる。速度をマッハ0.7にし、スーパー・スパローを駆使して「X-345M」は戦った。
さほど苦労せずにドンファン8機を始末した「X-345M」は、ベースG43を発見し20ミリバルカン砲で地上物撃破にとりかかった。HUDには破壊率がバーグラフで示されている。対空砲はここでもうるさい存在だ。地上掃射に気をとられていたヘビィ・マンが体にガクンとした揺れを感じると、たちまちキャノピーが真っ暗になってしまった。・・・不覚にも、暗視ヴィジョンの出力部に対空砲弾を受けたらしい。
「俺らしくねぇわな。」
ヘビィ・マンはたいして驚いた様子もなくスロットル・レバーで加速をかけた。・・・HUDのバーグラフは既になくなっている・・・。ベースG43に大打撃を与える「パッション2」を完遂したのだ。
3.Mr.PAZAM
「X-345M」はポイント・パイナップル9437で別ルートを通って敵領域に侵入した空中給油機D34AFと合流した。「ヘル・モスキート」の異名を持つD34AFは「X-345M」と同じセブンティーン・コーポレイションの作だ。同様の機体安定プログラム・チップを備えているせいか、受油プローブの接続は実にスムーズだった。
ルージュ1とコールしたら敵に通信を傍受される危険性があるという事で、「パッション3」の詳細説明は「ヘル・モスキート」の搭乗員によって行われた。キャサリンの声が聞けないという事はヘビィ・マンにとって非常に残念な事だったが、それはそれで仕方がない。「チーム・ハイボール」はドリーム・ランドを別師団に引き渡して隠密航行で次の作戦海域に移動しているのだ。到着するまで動きを察知される訳にはいかない。
・・・「パッション3」はポイント・サンド3046を飛行中の、ゴーシート輸送機5個スコードロンの1機の搭乗しているゴーシート派要人・パザム氏の暗殺にある。要はパザム氏の乗る輸送機を撃墜してしまえばいいのだが、全部で50機以上あるものから該当機を探し出すのは至難の技である。よって、反ゴーシート組織「パラドックス・オーガニゼイション」の協力によってパザム氏に取り付けられた高性能発信機から出される信号を「X-345M」の受信機で捉え、該当機をサーチする方法をとる。
・・・ポイント・サンド3046。砂漠上空を飛ぶ「X-345M」はトマト・マン10機を撃退し、輸送機5個スコードロンに接近しようかとしていた。スーパー・スパローのチャージが受けられなかったのでトマト・マンとの戦闘は20ミリバルカン砲オンリーで行った。
受信機の音が速く、大きくなっていく。ヘビィ・マンの駆る「X-345M」は後方から輸送機C7-1A、コード・ネーム「ジャガー」の編隊を攻撃し、荒稼ぎとばかりに次々と撃墜していった。「ジャガー」からの機銃攻撃もあったが、パザム氏の乗機を撃墜するのには、何の支障もきたさなかった。
4.GO-SHEET
・・・「チーム・ハイボール」がゴーシートの占領区を開放していく中、国連軍はゴーシート精鋭艦隊を太平洋の藻屑とし、一気に攻勢に転じた。さらに、世界各地の重要拠点を奪還する「オペレーション・カクテル」の進行も好調で、軍全体の戦況は好ましい方向へと進んでいった。
だが、ゴーシート総帥ザイ・ゴルクスは、こういった戦況を早急に転じるために、以前から「スペシャル・グローバル」に予告していた細菌兵器の使用に踏み切るのだった。・・・それに加え、これまで蓄積していた残りの航空兵力を戦場に投入し、海においては史上最強の戦艦と国連情報部で噂されていた「勝利への叫び号」がついに姿を現した。さらに「テロ輸出国」の異名をとるゴーシートだけあって、国連加盟国への爆弾、暗殺テロも大規模に行われた。
・・・そういった情勢の下、数々の任務を完了した最強の航空傭兵ヘビィ・マンは、サハラ砂漠・ニジェール川流域の国連軍補給基地に立ち寄った。「X-345M」もそこで翼を休め、生みの親であるゲイリィ・アダムから修理を受けている。彼は「X-345M」の事が気にかかって、危険を承知で「チーム・ハイボール」に参加したのだ。
戦っていく中で、ゴーシートの拠点を次々と潰していくヘビィ・マンは人々の間で英雄的人物として扱われ始めた。テレビ、新聞などのあらゆる報道機関からはヘビィ・マンの戦果が流され、日本ではヘビィ・マンに関する討論が、アメリカでは「ヘビィ・マンをどう思いますか?」といったインタビューが行われていた。もどかしいばかりの膠着状態に、あらゆる事態も容易に打開してくれるヘビィ・マンの存在は人々の希望そのものなのだ。だが、当の本人はこのフィーバーぶりを見て、顔をしかめるばかりだった。
そんな彼に、また、新たな任務が課せられた。「パッション8」・・・現在攻撃を受けている、反ゴーシート組織「パラドックス・オーガニゼイション」の基地を防衛せよ、というものだ。基地まで行くにはゴーシートの空母艦隊GTG52・7が存在している地中海を越えなくてはならない。当然、艦載機が飛んで来るはずである。
嫌な予感を携えながら、「X-345M」はフル装備で離陸した。
途中、ER-10Aというトマト・マンの改良型12機とドッグ・ファイトを展開しながらも、「X-345M」はようやく「パラドックス・オーガニゼイション」の基地にたどりついた。燃料の関係上、時間をかけて敵を殺る戦法はとれない。そこでヘビィ・マンは、低空、低速で、直線的な飛行を持ってして攻撃をかける事にした。
基地防衛の為に戦っている友軍に注意しながら、ゴーシートのジェット・ヘリ、戦車など片していく。20ミリにしては絶大な破壊力を誇るM78-Dは、ここぞとばかりにその猛威を奮うのだった。
・・・戦闘は「X-345M」の登場により終了した。ゴーシートの部隊もほぼ全滅し、「パラドックス・オーガニゼイション」の基地は組織員の力により、わずかな被害で済んだ。
「X-345M」はすっかり軽くなった機体を、破損した滑走路に落ち着かせた。・・・ヘビィ・マンが地上に足をつけ、出迎えの集団に視線をはしらせると、砂色のコンバット・スーツを身につけた金髪の少女が前に進み出た。16、7才ぐらいで、気品のある顔立ちをしている。
「当基地へようこそ、ヘビィ・マン。私は『パラドックス・オーガニゼイション』のボス、ミント・シャイリーです。」
彼女はにこやかにそう言うと、ヘビィ・マンを基地の建物に案内した。ミント・シャイリー・・・世界の裏表を知っているヘビィ・マンはすでにこの名を耳にしている。多国籍企業シャイリー社の令嬢で、類まれに見る統率力を持つ天才少女だ。とはいえ、こんな娘まで戦場に出るとは・・・。ヘビィ・マンはガラにもなく、驚くのだった・・・。
損傷の著しい通路を歩き、ヘビィ・マンは薄暗い映写室に案内された。ミントの説明でゴーシートに関するあらゆるデータがヘビィ・マンに与えられていく。だが、金の力で動く彼にとって、ゴーシートがなんたるかなど、どうでもいい事だった。自分はただ課せられる任務を遂行するだけだ。
映写機の横で熱心に説明しているミントの言葉と同時に、スクリーンに映し出されるものも次々と切り換わっていく。ゴーシートに関する情報は次のようなものである。
1. ゴーシートの正体について・・・ナチスの残党、テロ組織の進化形などの諸説が挙がってきているが、50年前より地下に潜伏して力を蓄積してきた「世界改革国家」の具体的形が真の姿である。
2. 兵力について・・・ゴーシートの兵力は、各国から雇い入れた傭兵のほかに、優秀な人材の細胞によって生まれたクローン体が主である。成長過程で失敗した欠陥体も、一部を特殊機械で補い、戦闘マシーンとして重要拠点に配置している。又、飛行要員に関しては航空機を操縦するのに必要な能力以外はすべて排除されている。
3. 工業力について・・・ゴーシートの兵器の性能は他のものと比較すると、非常に優れている事がわかる。最も撃墜しやすいER-10ですらA-7Eコルセアの総合能力を大幅に上回り、速度もマッハ2である。ゴーシートの工業力はスーパー・テクノロジーを応用した最新鋭のものである。
・・・と、以上の説明を終えたミントは、パイプイスにふんぞりかえっているヘビィ・マンに視線を投げかけた。一人の英雄を見ているような目だ。
「俺は人殺しで商売する人間だ。そんな野郎を英雄扱いしているお前らの神経がわからん。」
少女特有の王子様観で自分を見ているミントの目をパッと醒ましてやろうと、ヘビィ・マンはいつもの調子で言い放った。だが、ミントは面持ちを変えず、こう言いのけた。
「あなたがどんな人間だろうと、今は人々に希望を与える事のできる存在よ。私はそういう人を深く尊敬してるだけ。」
その後、二人の間でしばし口論が行われた。
・・・「X-345M」にルージュ1からのコールが送られてきた。「パッション9」の伝達である。内容は、これからポイント・アイアン2032に飛び、輸送中のゴーシート最新鋭戦闘機「G・H・O・M-176」を3機撃墜するというものだ。
「G・H・O・M-176」はレーザー・ウェポンを標準装備し、機体装甲はスーパー・スパロー2発でやっと破壊できるくらいの強靱さを持っている。ゴーシート側がつけたニック・ネームは「バルチバラン」。ゴーシートのシンボル・マークからきているらしい。
「X-345M」は早朝の空を力強く飛んでいった・・・。
5.TEAM HIBALL
・・・激しいドッグ・ファイトの末、「X-345M」は「バルチバラン」どもを撃破した。ゴーシートの最強戦闘機をまとめて相手にしたのだ、ヘビィ・マンの操る「X-345M」といえど幾分か損傷を受けていた。
「パラドックス・オーガニゼイション」基地に接近してみると、ただならぬ情況が起こっていた。・・・なんと、基地は完膚なきまでに破壊され、黒煙をあげていたのだ。
「俺の留守をいいことに。」
ヘビィ・マンはそう言って「X-345M」を使用の余地もない滑走路に着地させた。通常の航空機にはランディングできない悪条件地を、「X-345M」はハイ・ショック・アブソーバー・ギア(着地のショックを和らげる装置)と頑丈な前、主脚の併用により容易に利用できるのだ。
「X-345M」から降り、ヘビィ・マンは生存者を探した。しばらくそうしていると、地下の弾薬倉庫からミントの側近の一人が現れた。・・・彼の話によると、基地はゴーシート総司令部から派遣された大部隊の奇襲を受け、その際にミントは数名の組織員と共にゴーシート兵によって何処かに連行されたらしい。恐らくは総司令部に捕らえられているのだろう。彼はこの事をヘビィ・マンに伝える為、今まで身を隠していたのだ。英雄とあがめられているこの男ならば、必ずミントを救出できると思ったのだろう。
「俺ぁ、英雄になるつもりはねぇが・・・。」
ヘビィ・マンは側近にミント救出を約束し、GTG52-7を粉砕して地中海に停滞している「チーム・ハイボール」に向かった。
空母「ドナルド・ベイカー」に着艦した「X-345M」は、修理と爆装を受けた。任務を放棄して戻ったのにも関わらず、司令官カールストンは快くヘビィ・マンを迎えてくれた。どのみち、「パラドックス・オーガニゼイション」基地が破壊されては作戦を予定どうり続ける訳にはいかないのだ。
「ホーム・シックか?ヘビィ・マン。」
「犯行者は現場に戻るってね。」
ヘビィ・マンの意見も取り入れて「パッション10」は完成し、「ドナルド・ベイカー」のレディ・ルームにて作戦参加員に説明された。
ヘビィ・マンの主張は人質の救出だ。
「パッション10」の内容は次のようなものだった。
まず、「X-345M」がゴーシート総司令部に侵入し、ヘビィ・マンが人質を救出している間に、人質脱出用のハイパーグラスBH-3輸送ヘリと護衛のジェット戦闘ヘリが総司令部のへリポートに強行着陸。救出作戦終了後、F-14GZを主力とした爆撃機が総司令部に致命的な損害を与える・・・。
「X-345M」はカタパルトにセットされ、出撃を待つばかりとなった。
「見直したわ、ヘビィ・マン。手段を選ばない航空傭兵が人質救出を優先するなんて。」
キャサリンは通信機越しに素直な感想を述べた。その声には歓喜がこもっていた。
「血迷ったのさ。」
ヘビィ・マンはそっけなく言った。それだけで、キャサリンはヘビィ・マンという男性の魅力が一気に見えてきたような気がした。
6.PASSION-10
強力なゴーシート総司令部直属の戦闘機隊を撃破し、「X-345M」は総司令部の存在する大峡谷に侵入した。
本拠舎は谷の中にあり、鉄壁の守りを誇っている。しかも大峡谷の外には無数の対空砲と対空ミサイルが設置されており、攻撃する際には外部から爆撃を加えるよりも、峡谷内に入って直接打撃を与えた方が効果的で確実である。・・・しかし、危険である事には変わりない。峡谷内には例外もあるが基本的に狭い。その上、急なカーブも存在し、当然、下からの対空砲火もありうる。
ヘビィ・マンの目的は人質救出だ。その為、VTOL(垂直離着陸)機やヘリが使用する短距離滑走路に強行着陸しなくてはならない。革新的なSTOL性と、新機軸、ロケット・ブースト・ブレーキ(機体に備え付けられているロケットを噴射する事によって急減速を引き起こすシステム)でランディングは容易だが、その前が問題だ。・・・強行着陸するためには総司令部基地内を混乱させなくてはならない。峡谷内の所々にある地上施設を全体の5、60パーセントぐらい破壊してしまえばいい訳だが、ヘリやTR-20(ニック・ネームはカペラ)というVTOL戦闘機の執拗な妨害もあるだろう。とはいっても、やらねばならない。
・・・ロケット・ブースト・ブレーキが火を吹き、一瞬、キャノピーが煙に包まれるのと同時に、ヘビィ・マンの体に激しいショックが襲ってきた。着陸の影響だ。・・・ヘビィ・マンは「X-345M」から降り、滑走路を走破して管制塔に侵入した。Gスーツのおかげで大部分の衝撃はおさえられていたものの、急減速と着陸のショックはわずかにヘビィ・マンの体にダメージを与えていた。
手持ちのピストルを駆使して建物の中を進み、本拠舎へ続く地下通路を発見し、その中へ入るヘビィ・マン。航空傭兵という肩書を持つこの男は、白兵戦にも優れていた。それに加え格闘技にも長けている。・・・本拠舎の弾薬倉庫から武器を奪い、ゴーシートに雇われている傭兵たちと取り引きして、ようやくヘビィ・マンはミントが監禁されている監獄の場所を探り当てた。・・・そこまで行くのに予想以上の労力を費やした。ゴーシートの陸軍将校との戦いもあったが、タフな男であるヘビィ・マンはその程度の事でへこたれなかった。
・・・そして、ついにミントを救出した。
「来てくれると思ってたわ、ヘビィ・マン。」
そう言ってにっこりと笑うミント。苦労して得た彼女の笑顔を見て、今までの疲労が一気に癒えたヘビィ・マンは、ミントのたっての願いを聞き入れてゴーシート総帥ザイ・ゴルクスの抹殺を決意した。
「・・・ついで、だ。」
ミントと共にザイ・ゴルクスの居場所をつきとめ、その個室まで追い詰めたヘビィ・マンは、ピストルをかまえて、こう言うのだった。
「俺ぁ、確かに人殺しで金儲けをするふてぇ野郎だ。・・・だがな、これでも命の重さってのは十分に理解しているつもりだぜ。思想だけに気をとられているてめぇと違ってな。」
次の瞬間、ザイ・ゴルクスの頭部が勢いよく吹っ飛び、赤いものが辺りに散った。
「思想のため、目的のため、多少の犠牲ってのは仕方ない事だ。だがな、物事には限度ってものがある。自分の事は棚に上げて、と思うかもしれんがな。」
ヘビィ・マンはそう言うと、脱出のために部屋を出た。
・・・滑走路ではヘリ部隊がすでに到着し、ヘビィ・マンが救出した人質を収容していた。
人質を乗せたヘリ部隊は近くの国連軍基地まで飛び、そこで人質を降ろして「チーム・ハイボール」に戻ってくるというスケジュールをとる。
「もう会えないの!?」
ミントが「X-345M」のコクピットに乗り込んだヘビィ・マンに向かって叫んだ。 別れのキスを済ませたばかりなのに、ミントはまだヘビィ・マンとの別離をあきらめきれていない。「こういう所はまだガキか。」と、ヘビィ・マンは優しい目でミントを見て、「お前が立派な女になったら、会いにきてやるぜ。」
その一言で安心したのか、ミントはクスッと笑った。・・・キャノピーが閉じ、ジェット・ノズルから炎が出ると、「X-345M」は渓谷から、夕日の空へ飛んでいくのだった・・・。
7.エピローグ
「オペレーション・パッション」は完了した。空母「ドナルド・ベイカー」の飛行甲板では、英雄機「X-345M」を取り囲んで、司令官ダニエル・カールストンが外の乗組員と共に勝利の美酒を味わっていた。
少し離れた所で、航空傭兵ヘビィ・マンは沈みゆく夕日を眺めていた。
「お疲れさま、ヘビィ・マン。」
群衆からはずれてきたキャサリンが、煙草をくゆらすヘビィ・マンに寄り添った。物思いにふけっていたヘビィ・マンは自分の左手をキャサリンの肩にのせ、こう言った。
「やっと、お前とゆっくり話ができるな。」
その目は夕日を見つめている。
「・・・ええ、そうね。」
キャサリンは顔に微笑をたたえると、自分も夕日を見るのだった・・・。
-完-
使用した400字詰め原稿用紙 34枚
参考資料 「ペンタゴン」
「F-14 トムキャット」
「空母」
著者 今武 信久
年齢 15歳
職業 学生
協力 グレート・ボーイズ
TOOLS
代表者 氏名 石川 修一
年齢 15歳
職業 学生
郵便番号 816
住所 福岡県大野城市・・・・・・
電話番号 092-504-・・・・
制作 1990年10月13日